豆状骨(pisiform)の進化と恐竜から鳥類への飛行起源|獣脚類化石の新発見
豆状骨(pisiform)は近位手根列を構成する手根骨の1つで、尺側手根屈筋が停止するので大事と言えば大事なのでしょうが、ラケットスポーツで折れたりするし、実際あまり役に立ってない骨なんじゃないか、という印象があったのですが(手外科の方々すみません)、実は鳥類では翼の安定性を高め、羽ばたきの際の動きを自動化する上で極めて重要な役割を担っていることが知られています。この論文では鳥類の祖先にあたる獣脚類恐竜の手首の骨( 腕骨 carpus)の進化において、これまでの研究では鳥類に特有と考えられていた pisiformが、より早い段階で出現していたことが明らかになりました。
本研究では、モンゴルのゴビ砂漠で新たに発見されたオビラプトロサウルス類とトロオドン科の化石を分析し、pisiformの存在を確認しました。これらの発見と既存の文献の再解釈により、pisiformは鳥類だけでなく、より広範な獣脚類(竜盤類に属する恐竜の一群)に存在することが示されました。系統解析の結果、pisiformは鳥類だけでなく、より広範な獣脚類に出現し、特にPennaraptoraというグループで尺骨手根骨(ulnare)と置き換わる形で出現することが明らかになりました。また、pisiformの置き換わりは、鳥類とその近縁種における飛行能力の起源と密接に関連している可能性が示唆されました。この研究は、鳥類の飛行器官の進化が、これまで考えられていたよりも複雑で段階的なプロセスであったことを示唆しています。

論文情報
Napoli, J.G., Fabbri, M., Ruebenstahl, A.A. et al. Reorganization of the theropod wrist preceded the origin of avian flight. Nature 644, 699–705 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09232-3