英国で製薬大手が研究開発投資を停止|薬価制度と医療費抑制の影響

英国で製薬大手が研究開発投資を停止|薬価制度と医療費抑制の影響

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英国の医療費は大部分が税金で賄われていますが(一部は社会保険料)、NICE(National Institute for Health and Clinical Excellence;国立保健医療研究所)によって費用対効果の観点から厳格に薬価・償還の可否が決定されています。このような中で製薬大手メルク社とアストラゼネカ社が、英国における研究開発投資を一時停止しました。メルクはロンドンに計画していた巨額の研究施設開発を中止し、アストラゼネカもケンブリッジの研究拠点拡張計画を見直しているそうです。他の製薬会社も英国への投資継続に疑問を呈しています。この背景には、英国政府の製薬分野への投資削減があります。現在の制度では、製薬会社はNHSに医薬品売上の一部を払い戻す必要がありますが(このようなシステムは日本にはないと思います)、政府がその割合を引き上げたことに業界は不満を抱いているとのことです。

しかし、これは製薬業界全体の構造的な問題の表れだと指摘する声もあり、製薬会社は旧来のビジネスモデルからの転換を迫られています。アストラゼネカは、研究開発投資が「イノベーションを重視する国」に自然に流れると示唆しており、英国製薬業界団体のCEOは、米国、ベルギー、アイルランド、シンガポール、ドイツなどに投資が流出している事例を挙げていますが、結局製薬会社は儲からないところには投資をしない、という考えがベースにあります。

持続可能な医療提供を行うためにどうすればよいかについては各国頭を悩ましていますが、このような企業との駆け引きは今後も続きそうです。日本でもとめどなく膨らむ医療費にどのようにブレーキをかけるかを真剣に考える時期が来ているように思います。

英国で製薬大手が研究開発投資を停止|薬価制度と医療費抑制の影響
英国で製薬大手が研究開発投資を停止|薬価制度と医療費抑制の影響(出典:AI生成画像)

論文情報
Pharmaceutical giants pull out of UK: why it matters for global science
doi: https://doi.org/10.1038/d41586-025-03001-y

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