慢性外傷性脳症(CTE)の初期変化を解明|Nature論文が示すRHIと細胞応答

慢性外傷性脳症(CTE)の初期変化を解明|Nature論文が示すRHIと細胞応答

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『コンカッション』(Concussion)という映画は、NFL選手の慢性外傷性脳症(Chronic Traumatic Encephalopathy, CTE)を発見したベネット・オマル医師が、組織的な隠蔽と戦いながら真実を追求する姿を描いた印象的な作品です。2017年のJAMA誌では、引退したアメフト選手の脳標本の約9割にCTEが認められ、頭部への反復衝撃(RHI)が脳に不可逆的な損傷をもたらすことが改めて示されました(Mez J, et al. JAMA. 2017 Jul 25;318(4):360-370)。このように繰り返しの頭部への衝撃は脳に不可逆的な障害を生じることが知られています。今回Natureに発表された論文は、CTE発症に先行して細胞レベルの変化を引き起こすことを、シングルセルRNAシークエンシング(snRNA-seq)を用いてアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツ経験者を含む若年層(51歳未満)の脳組織で明らかにしたものです。

(結果)主な結果は以下の4つです。

①RHI曝露により、SPP1を発現する炎症性ミクログリアが増加し、その程度はRHI曝露期間と相関した。
②血管内皮細胞において血管新生関連遺伝子の発現が亢進し、炎症反応が見られた。
③皮質溝の第2/3層の神経細胞が、タウ病理とは独立して有意に減少していた。この神経細胞の減少はRHI曝露期間と関連していた。
④TGFβ1が、ミクログリアと血管内皮細胞間のクロストークを媒介する潜在的なシグナルとして同定された。

これらの結果は、RHIがCTEの初期段階において、タウ蓄積に先立ち、持続的な細胞変化を引き起こすことを示唆しています。また、RHIに対する特定の細胞応答が、CTEの診断および治療戦略の開発に役立つ可能性を示唆しています。

慢性外傷性脳症(CTE)の初期変化を解明|Nature論文が示すRHIと細胞応答
慢性外傷性脳症(CTE)の初期変化を解明|Nature論文が示すRHIと細胞応答(出典:AI生成画像)

論文情報
Butler, M.L.M.D., Pervaiz, N., Breen, K. et al. Repeated head trauma causes neuron loss and inflammation in young athletes. Nature (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09534-6

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