AIが設計したウイルスが薬剤耐性大腸菌を殺傷 ― 革新とリスクの狭間

AIが設計したウイルスが薬剤耐性大腸菌を殺傷 ― 革新とリスクの狭間

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小松左京氏の『復活の日』は細菌兵器として研究されていた新種のウィルス「MM-88」により人類死滅の危機が迫る中、南極基地で生き延びようとする人々を描いた作品ですが、人工知能(AI)を用いて設計したウイルスが、薬剤耐性を持つ大腸菌を攻撃・殺傷することに成功したことが報告されました。

Stanford大学の計算生物学者Brian Hie博士らは、AIモデルEvo1およびEvo2を用いて、200万以上のバクテリオファージゲノムを学習させ、特定の機能、特に薬剤耐性大腸菌に感染する能力を持つΦX174型ウイルスを設計しました。

彼らは、AIが生成した数千の配列から302の実行可能なバクテリオファージを選び出し、DNA合成して大腸菌に感染させた結果、そのうち16個が実際に大腸菌に感染・殺傷能力を示しました。さらに驚くべきことに、AI設計のファージの組み合わせは、野生型のΦX174では不可能だった3種類の異なる大腸菌株に感染し、殺傷できることが判明しました。

AIによるウイルス設計研究は、革新的な可能性を秘める一方で、意図的な悪用や偶発的な漏洩・拡散などの潜在的な危険性も孕んでいます。Heidelberg大学のKerstin Göpfrich氏は、これはAIに限った問題ではなく、生物学研究全般に共通する”dual-use dilemma”であると指摘しています。研究チームは、AIモデルの学習データから真核生物(人間を含む)に影響を与えるウイルスを除外することで、バイオセーフティに関する懸念に対処したとしていますが、懸念は残ります。

AIが設計したウイルスが薬剤耐性大腸菌を殺傷 ― 革新とリスクの狭間
AIが設計したウイルスが薬剤耐性大腸菌を殺傷 ― 革新とリスクの狭間(出典:AI生成画像)

論文情報
World’s first AI-designed viruses a step towards AI-generated life
doi: https://doi.org/10.1038/d41586-025-03055-y

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