切断で全身が準備状態に:アホロートルの再生を支える交感神経の役割

切断で全身が準備状態に:アホロートルの再生を支える交感神経の役割

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メキシコサンショウウオ(axolotl)は、手足を切断されても再生することが知られています。そのメカニズムとしては、局所で再生芽(blastema)と呼ばれる組織が形成されることが重要であるとされています。しかし本研究では、四肢切断が全身的な細胞活性化を引き起こすことに注目し、それが後の再生能力を高める可能性を示唆しています。

著者らは、四肢切断が引き起こす「全身的な活性化」に着目しました。これは、切断部位から離れた身体の様々な組織で細胞増殖が促進される現象です。切断によって全身的に活性化されたサンショウウオは、その後に別の四肢を切断された場合、より速く再生することが明らかになりました。この事実は、最初の切断が身体全体を「準備」させ、将来の再生に備えさせていることを示唆しています。

この「全身的な活性化」には交感神経系が重要な役割を果たしており、交感神経を外科的に遮断したり、特定の薬剤で機能を阻害したりすると、全身的な活性化が起こらず、再生能力も低下しました。交感神経系の役割としては、交感神経が産生するノルアドレナリンがアドレナリン受容体を介して細胞に作用することが重要であり、α2A-アドレナリン受容体は全身的な活性化に、β-アドレナリン受容体は損傷部位での局所的な再生に重要であることがわかりました。さらに、mTORがアドレナリン受容体の下流で作用し、全身的な活性化と再生を促進することも明らかになりました。全身的に活性化された細胞は、通常の成長や組織修復において増殖する細胞と類似しており、このことは再生が既存の細胞タイプを再利用している可能性を示唆しています。さらに、これらの細胞は、遺伝子発現パターンやクロマチン構造の変化を通じて、再生に備えた「エピジェネティックなプライミング」を受けていることも示唆されました。

この研究は、再生を単に損傷部位での現象として捉えるのではなく、身体全体の協調的な応答として理解することの重要性を強調しています。将来的には、アドレナリン受容体を標的とした薬剤や、mTORシグナルを調節する薬剤によって全身的な活性化を模倣することで、四肢切断などの大きな損傷からの回復が可能になるかもしれません。

切断で全身が準備状態に:アホロートルの再生を支える交感神経の役割
切断で全身が準備状態に:アホロートルの再生を支える交感神経の役割(出典:AI生成画像)

参考情報
Adrenergic signaling coordinates distant and local responses to amputation in axolotl
Payzin-Dogru, Duygu et al.Cell, Volume 0, Issue 0

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