高学歴と記憶力の関係を再検証:幼少期の認知能力が鍵か

高学歴と記憶力の関係を再検証:幼少期の認知能力が鍵か

ー シェアしよう ー

高学歴者が高齢期においても優れた記憶力を示すことは、多くの研究で示されています。この理由として、高学歴は脳の加齢に伴う変化を抑制し、認知予備力を高めることで認知機能の低下を防ぐ、あるいは脳の病的な変化に対する耐性を高めるなどが提唱されていました。しかし本研究では、教育は長期的な記憶力の低下や脳構造の維持には関連せず、むしろ幼少期からの認知能力の高さが影響している可能性が示唆されました。

この研究は33の西欧諸国における17万人以上を対象とした大規模な縦断研究であり、教育が加齢に伴う認知機能低下や脳の構造変化に及ぼす影響を検証したものです。分析の結果、高学歴はより良い記憶力、より大きな脳容積、特に記憶に関わる脳領域の容積と関連していることが示されました。一方で教育は加齢に伴う認知機能低下や、脳の加齢に伴う認知機能への影響を軽減することはありませんでした。

これらの結果は、教育と認知機能の関連が、早期の認知能力や脳構造といった生涯早期に存在する要因を反映している、つまり特定の特性を持つ人がより高い教育を追求する傾向があるという選択効果が働いているだけであるという可能性を示唆するものです。

本研究は、高学歴が脳を保護するのではなく、幼少期に獲得された認知能力が、生涯にわたって高い認知機能を支えているという新たな視点を提示しています。このことは、認知症予防において、幼少期からの教育や知的刺激の重要性を示唆しています。

しかし本研究は観察研究であり、教育と認知機能低下の関連性について因果関係を直接的に証明するものではありません。また教育以外にも認知機能に影響を与える様々な要因(遺伝的要因、生活習慣、社会経済的要因など)を完全にコントロールできていない可能性があります。さらに脳MRIデータは脳構造の変化を捉える上で有用ですが、神経細胞の活動やシナプスの変化といったより詳細な脳機能の変化を捉えることはできないという点も問題です。

高学歴と記憶力の関係を再検証:幼少期の認知能力が鍵か
高学歴と記憶力の関係を再検証:幼少期の認知能力が鍵か(出典:AI生成画像)

論文情報
Fjell, A.M., Rogeberg, O., Sørensen, Ø. et al. Reevaluating the role of education on cognitive decline and brain aging in longitudinal cohorts across 33 Western countries. Nat Med 31, 2967–2976 (2025).
https://doi.org/10.1038/s41591-025-03828-y

ー シェアしよう ー

関連記事