フランス革命を“感染症モデル”で読み解く──『大恐怖(La Grande Peur)』の噂はどのように拡散したのか

フランス革命を“感染症モデル”で読み解く──『大恐怖(La Grande Peur)』の噂はどのように拡散したのか

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1789年フランス革命初期に発生した「大恐怖(La Grande Peur)」は、地方を席巻した広範なパニックと暴動の連鎖を指します。慢性的な飢饉と不作が社会不安を増幅させる中、「盗賊団が村を襲撃する」という根も葉もない噂が拡散し、これが貴族階級による革命抑圧の陰謀論と結びつき、人々の恐怖を煽りました。自警団が組織されましたが盗賊は現れず、矛先は貴族の城へと向かい、封建的権利を記録した土地台帳の破壊が横行しました。この騒乱はフランス全土に伝播し、革命の進展を加速させる触媒となりました。

この論文は「大恐怖」の拡散の様子を疫学モデルを用いて分析したものです。既存の歴史記録から、噂がどのように地域から地域へと伝播したかのネットワークを再構築し、基本再生産数などの疫学的パラメータを算出しました。18世紀フランスの道路網の構造を利用して、噂の拡散経路を推定し、拡散速度を定量化しました。また識字率、人口規模、政治参加、小麦価格、土地所有法など、当時の制度的、人口統計的、社会経済的条件を考慮して、噂の拡散に関連する要因を特定しました。分析の結果、「大恐怖」は複数の独立した場所から発生し、感染症の流行のように拡散したことが明らかになりました。識字率や収入が高い地域ほど噂が広がりやすく、封建的な土地所有制度が噂の拡散に影響を与えたことが示唆されました。これらの知見は、「大恐怖」が単なる感情的な爆発ではなく、政治的動機に基づいた現象であったとする解釈を支持するものです。

フランス革命を“感染症モデル”で読み解く──『大恐怖(La Grande Peur)』の噂はどのように拡散したのか
フランス革命を“感染症モデル”で読み解く──『大恐怖(La Grande Peur)』の噂はどのように拡散したのか(出典:AI生成画像)

参照情報
Zapperi, S., Varlet-Bertrand, C., Bastidon, C. et al. Epidemiology models explain rumour spreading during France’s Great Fear of 1789. Nature 646, 358–364 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-09392-2

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