「痛みを感じる脳」を再現?ヒト感覚経路を再構成するアセンブロイド誕生
幹細胞のもつ自己複製能と分化能を利用して自己組織化させることで3次元的な組織様構造として形成させるオルガノイド研究は様々な領域で注目されています
この論文では、ヒト多能性幹細胞から作製された4つの異なる脳オルガノイド(体性感覚、脊髄、視床、皮質)を統合した、ヒト上行性体性感覚アセンブロイド(human ascending somatosensory assembloid, hASA)という新しいin vitroモデルが確立されました。このモデルは、脊髄視床路を模倣し、痛み、触覚、痒みなどの体性感覚情報を末梢器官から中枢神経系へ伝達する経路を再現します。
トランスクリプトーム解析により、この回路の主要な細胞型が存在することが確認され、狂犬病ウイルスを用いたトレーシングとカルシウムイメージングにより、感覚ニューロンが脊髄後角ニューロン、視床ニューロンへと接続していることが示されました。有害な化学刺激後、hASAのカルシウムイメージングは協調的な反応を示し、細胞外記録とイメージングでは、アセンブロイド全体で同期した活動が明らかになりました。
特に、痛覚不全を引き起こすナトリウムチャネルNaV1.7の喪失はhASA全体の同期を破壊し、一方、極度の疼痛障害に関連するSCN9A遺伝子の機能獲得変異は過剰な同期を引き起こしました。これらの結果から、hASAがヒト感覚経路の必須コンポーネントを機能的に再構成していることが実証され、感覚回路の理解を深め、治療法の開発を促進する可能性が示唆されました。このプラットフォームは、神経疾患や精神疾患の機能不全の解明や、薬物スクリーニングにも役立つと期待されています。

論文情報
Kim, Ji., Imaizumi, K., Jurjuț, O. et al. Human assembloid model of the ascending neural sensory pathway. Nature 642, 143–153 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08808-3