「動きを取り戻す」 パーキンソン病に対するiPS/ES細胞移植の臨床試験が前進

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パーキンソン病は黒質ドーパミン(DA)ニューロンの喪失を特徴とし、動作緩慢、筋固縮、安静時振戦を特徴とする運動症候群を引き起こす疾患です。今週号のNature誌にパーキンソン病に対するiPS細胞、ES細胞を用いた補充療法の臨床試験の結果が掲載されました。

  1. 京都大学の高橋先生たちの論文は、パーキンソン病に対するiPS細胞由来のドパミン神経細胞移植の第I/II相臨床試験の結果を報告しています。7人の患者(50-69歳)の被殻にiPS細胞由来のドパミン前駆細胞を移植し、24ヶ月間追跡しました。重篤な有害事象は認められず、軽度から中程度の有害事象が73件ありました。有効性評価では、6人の患者のうち4人でMovement Disorder Society Unified Parkinson’s Disease Rating Scale part III OFFスコアの改善が見られました。Hoehn-Yahrステージは4人の患者で改善しました。PET検査では、被殻における18F-DOPA取り込み速度定数(K₁)が44.7%増加しました。この結果から、同種iPS細胞由来のドパミン作動性前駆細胞が生着し、ドパミンを産生し、腫瘍を形成しないことが示されました。
  2. Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのViviane Tabarらのグループは、ヒトES細胞(hES細胞)由来のドパミン神経細胞移植の第I相臨床試験の結果を報告しています。本試験は、12人のパーキンソン病患者を対象とした非盲検試験で、hES細胞から分化させたドパミン神経前駆細胞(bemdaneprocel)を両側被殻に移植しました。患者は、低用量(0.9百万個、n=5)または高用量(2.7百万個、n=7)の細胞を移植され、1年間免疫抑制療法を受けました。

主要評価項目は、移植後1年間の安全性と忍容性でした。

副次評価項目と探索的評価項目は、PET画像による移植細胞の生存、運動機能の変化、薬物療法の影響、生活の質などでした。

結果として、安全性と忍容性は確認され、細胞に関連する有害事象は認められませんでした。移植後18ヶ月のPET検査では、被殻における18F-DOPA取り込みが増加し、移植細胞の生存が示唆されました。運動機能評価では、高用量コホートでMDS-UPDRS Part III OFFスコアの平均23ポイントの改善が認められました。移植誘発性ジスキネジア(GID)は認められませんでした。

これらの結果は、iPS細胞、あるいはES細胞由来のドパミン産生細胞移植は安全であり、今後の大規模な臨床試験を支持する結果と考えられます。

「動きを取り戻す」 パーキンソン病に対するiPS/ES細胞移植の臨床試験が前進
パーキンソン病に対するiPS/ES細胞移植の臨床試験が前進 / 出典:AI生成画像

論文情報

Sawamoto, N., Doi, D., Nakanishi, E. et al. Phase I/II trial of iPS-cell-derived dopaminergic cells for Parkinson’s disease. Nature 641, 971–977 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08700-0

Tabar, V., Sarva, H., Lozano, A.M. et al. Phase I trial of hES cell-derived dopaminergic neurons for Parkinson’s disease. Nature 641, 978–983 (2025). https://doi.org/10.1038/s41586-025-08845-y

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