ソーカル事件からAI論文偽造時代へ - 科学の信頼 性を問い直す

ソーカル事件からAI論文偽造時代へ – 科学の信頼 性を問い直す

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ニューヨーク大学物理学教授だったアラン・ソーカル氏は、1996年にポストモダン思想家の文体をまねて科学用語と数式をちりばめた「無内容な論文」を作成し、これをポストモダン思想専門誌『Social Text』に投稿し、そのまま受理・掲載されました。その後ソーカル氏はこの論文がでたらめな内容だったことを自ら暴露し、それを見抜けず掲載したポストモダン思想家を批判しましたが(いわゆるソーカル事件)、この事件は「サイエンス・ウォーズ」と呼ばれて大きな論争になりました。
でたらめと言いつつ、一定のもっともらしさを有した論文を書くというのはそれなりの知識や苦労が必要だったと思いますが、今ではこのような論文はAIが簡単に作ってくれます。現代のAIによる大量の低品質・偽造論文の自動生成や改ざんは、「事実を装ったインチキ論文」の氾濫を招き、科学コミュニティの信頼を危うくしています。ソーカル事件は、「科学は絶対的な真理を追究するものではなく、社会的・文化的な構築物である」というポストモダン的見解の危うさと、その逆に「科学的知見は客観的に普遍的なものだ」とする実在論の価値を対比させる議論に火をつけたという点で意義があったと思いますが、現在AIによる論文の偽造や冗長化の横行は、もっとプリミティブなレベルで学術論文の信頼性の低下や学術出版の規制と管理の困難さを改めて問い直すこととなっています。

ソーカル事件からAI論文偽造時代へ - 科学の信頼 性を問い直す
ソーカル事件からAI論文偽造時代へ – 科学の信頼 性を問い直す(出典:AI生成画素)

参考情報

Journals infiltrated with ‘copycat’ papers that can be written by AI

doi: https://doi.org/10.1038/d41586-025-03046-z

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