異種移植の最前線:遺伝子編集ブタ臓器が切り拓く移植医療の未来
近年の啓発活動により、日本における脳死移植への理解と臓器提供意思表示は着実に進み、移植医療は一定の進展を見せています。術後の良好な成績も相まって、移植医療は社会に根付きつつあると言えるでしょう。しかしながら、依然として移植を希望する患者数に対してドナー数は不足しており、日本臓器移植ネットワークによると、2024年9月時点で約1万5千人が移植を待機する一方で、年間の移植件数は数百件にとどまります。
本記事は、遺伝子編集された豚の臓器をヒトに移植する「異種移植」の現状と展望について、海外の最新事例を交えながら解説したものです。異種移植は、100年以上前から研究されてきた分野ですが、近年、遺伝子編集技術や免疫抑制療法の進歩により再び注目を集めています。2024年には、世界で初めて遺伝子編集された豚の腎臓が、深刻な腎不全を患うトワナ・ルーニー氏に移植されました。彼女は移植後、一時的に透析から解放され、体調も改善しましたが、130日後に腎臓は機能不全となり摘出されました。同じ頃、ティモシー・アンドリュース氏も同様の豚腎臓移植を受け、記事公開時点では良好な状態を維持しています。
アメリカでは、Revivicor社がFDAから初の臨床試験の承認を得て、eGenesis社も同様の申請を予定しています。中国でも、ClonOrgan Biotechnology社が積極的に研究開発を進めており、異種移植の実用化に向けた動きが加速しています。
しかし、異種移植にはいまだに免疫拒絶反応のリスク、豚由来の感染症のリスク、倫理的な問題など、多くの問題が指摘されており、克服すべきハードルは少なくありません。動物愛護の観点からは、豚の遺伝子を操作し、臓器提供のために飼育することに対する批判も存在します。また、異種移植の費用対効果についても議論が必要です。高度な技術を要するため、移植費用は高額になる可能性があります。保険適用や公的支援のあり方など、社会的な議論も必要となるでしょう。
異種移植は、臓器不足を解消する可能性を秘めた画期的な医療技術です。今後日本が異種移植の分野でリーダーシップを発揮するためには、政府や研究機関、医療機関が連携し、積極的に研究開発を進める必要があります。また、国民に対する情報提供や、倫理的な議論を通じて、異種移植に対する理解を深めることも重要です。

参考情報
Can gene-edited pigs solve the organ transplant shortage?
https://doi.org/10.1126/science.zlopfu3
